オーガニックパンケーキとキルケゴールに見る転職と幸せの心理学
あなたが転職をする時の、その理由はなんでしょうか。もっと高い年収?それとも役職や地位で評価されたい?よりやりがいのある仕事をしたいのでしょうか?
年収など物理的な待遇を向上させたいという希望はもちろんあると思いますが、転職事由としてその他には「環境を変えることで、今の自分よりも新しい自分として成長したい、新しい可能性や才能を磨きたい」という積極的なものが多く見られるようです。さて、それにも関わらず、多くの人が転職する度に迷い、何かが違う、こんなはずではなかった、という愚痴を溢すことになるのです。これは一体なぜでしょう?
今回はそのヒントをデンマークの哲学者、キルケゴールの分析に照らし合わせて見てみたいと思います。キルケゴールは「真の自分自身たれ」と説いた実存主義の哲学者です。
※実存主義・・普遍的でなく個別的・現実的な人間の存在・問題の解決を思索の対象とした哲学
人は絶望から這い上がろうとして絶望にはまりこんでいく。
いわゆる転職したのに満足出来ていない状況・・現状に不満な状況だと思いますが、これはキルケゴール風に言わせると(ちょっと大げさに聞こえますが)「現状に絶望した状態」です。少し具体的にお話で紹介したいと思います。
現在の職場に満足していないB子さん(仮名)のストーリーです。B子さんは国内大手企業でインターネット関連企画職として勤務していますが、何か満たされない現状を感じていました。
そこで、B子さんは自分を分析しました。「そうだ、私は環境問題やオーガニックなものが好きだし、パリ協定から脱退するトランプ大統領なんて大嫌いだし、そんなトランプ大統領に反発してアメリカの企業なのに独自にパリ協定に加入してオーガニックな世の中に貢献しようとしているアメリカのグローバル企業A社がかっこいい!」と、A社に転職すべく猛勉強を始めました。
英語の勉強に集中するため8年間付き合っていた彼氏とも別れ、2年間もの猛勉強の末、ついにA社への入社が決まりました。しかしながら採用になったA社の日本法人では、国際的な仕事ばかりではなく、むしろ日本語能力を頼られて地道な翻訳や調整的な仕事ばかり。給料は少し上がったけど、社風はギスギス、オーガニックな業界には行けたけど、前の企業ではあった社食はなくなり外食頼りとストレス・寝不足で肝心の自分の肌は荒れるばかり。
そんな中、自分が勉強中に同期の女の子たちは続々結婚していました。今やインスタグラムからは、毎日銀座や中目黒でママ友たちとオーガニックレストランでおしゃれな食事をする友達たちの意識高い系picsのオンパレード。
なぜかつのる、イライラ感。そんな写真ばかり、毎日アップしなくてもいいじゃない。振り向けば、ふっと私ももう30代半ば。彼氏なし。あれ・・これが私の望んだ人生だったっけ?
私ってオーガニックな仕事がしたかったのかな?それとも、素敵な旦那さんと代官山や二子玉川で100%有機小麦のパンケーキを食べてその写真を毎日インスタにアップしたかったんじゃなかったっけ・・。そう、このインスタの友達みたいに・・。そうして、B子さんは自分のインスタグラムのアカウントをそっと閉鎖したのでした。
キルケゴールは次のように自己の抑圧の流れを分析しました。
1.私は今ある自分とは別の人間になりたい。より新しい別の自己を持ちたい。
2.そこで私は、自分自身を今とは異なったなにものかに変えようと努力する。
ここで、新しい自分になろうとして失敗した場合は、次の3のようになります。
3.2の行為に失敗すると、私は失敗した自分自身に絶望する。
では、首尾よく成功して、新しい自分自身になれたときは次の4のようになります。
4.2の行為に成功すると、私は自分の真の自己を捨て去ることになる。
つまり、成功しても失敗しても、次の5の結果に陥ります。
5.いずれにせよ、私は自分の真の自己に絶望してしまう。
何が問題だったのでしょう?
これだとどちらにしても必ず絶望状態・・不幸になってしまいます。B子さんは、どちらにしても幸せになれないのでしょうか?もちろんキルケゴールはその解決策を残しています。
「絶望から逃れるには、自分の真の自己を受けいれるよりほかない」
問題は、私たちは本当の真の自分自身が、何を望んでいるかを非常に見失い易いことなのです。あなたは、本当にグローバルな企業でオーガニック関連の仕事に転職したいのですか?それとも、本当に二子玉川や代官山でオーガニックのパンケーキを旦那さまやお友達と食べて、美しく加工した写真をインスタに毎日アップしたいのですか?それとも、それとも・・・。
「真の自分自身たれ」というキルケゴールの問いに答えを出すのは、どうやら簡単なものではないようです。そうゆう私も、今日もパンケーキを食べて、インスタの綺麗な写真をみながら自分を模索し続けるのでした。
セーレン・キルケゴール(1813~1855)
デンマークの哲学者・思想家。「死にいたる病」などの著作で絶望とは自己の疎外に起因すると説いた。抽象的概念としての人間ではなく、彼自身も含む個別・具体的な存在としての人間を哲学の対象とした点が画期的で、実存主義哲学の創始者として評価されている。
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